|

今つなぐ命 第5部 共生<1> 農村景観 |
| 2009/12/02 (水) 本紙朝刊 総合1 A版 1頁 |
|

■安らぎ生むバランス
つくば市観音台の農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)農村工学研究所にあるドーム型シアター。220度のスクリーンにフルハイビジョン3Dで撮影された農村景観を映し出し、被験者の生理・心理反応を計測する実験が行われている。
11月下旬、記者は脳内酸素計と3D眼鏡を掛けて被験者役を体験した。同研究所景域整備研究室長の山本徳司さん(51)は「農村と都市の映像でどちらがストレスを感じるかを調べる実験です」と説明。
スクリーンには農村と都市の映像がそれぞれ7分半ずつ映し出された。いすの前にはアイトレーサーという機器が設置され、視線の動きや注視時間が記録されている。実験後、山本さんは「農村の方が都市の映像を見ているときよりも脳内酸素量(酸素化率)が平均で2〜3%ほど低く、安定していましたよ」と教えてくれた。
脳内酸素量の数値は、脳がどれだけ酸素を必要としているかを示す。例えば勉強して頭を使えば脳はより多くの酸素を必要とする。穏やかな気持ちで頭を休めていれば酸素量は下がる。
山本さんによると、これまでの実験では、約8割の被験者に都市よりも農村景観を見て脳内酸素量が低下する傾向が見られた。農村景観を見ているときの方がリラックスしていたということだ。
“日本人の原風景”ともいえる農村景観。田植え後の青々とした棚田や田んぼ脇の水路…。実験で映し出された映像はどこにでもありそうな農村の景色だった。なぜ、農村は人々に安らぎを与えるのだろうか。
農村では古くから、人間と動植物が良いバランスを保ちながら共生関係を築いてきた。食料生産をして人間が生活し、田んぼや里山には多様な動植物が生息する。山本さんは安らぎの理由について、「見た目の美しさだけではなく、農村景観から動植物との共生や農村の地域文化などを直感的に感じ取ることで、人は安らいだり感動しているのではないか」と考えている。
山本さんはもともと農業土木の研究者だった。現地調査で全国を訪れるうち、農村景観に魅せられ、20年前に「景観研究」という新分野に飛び込んだ。「農村が大好き。素晴らしい景観を少しでも多く、後世に残したい」。しかし今、日本人の原風景は、農業の衰退や過疎化によって急速に失われている。
山本さんは今後、農村景観が日本人にとっていかに重要であるかを実証し、研究成果を生かして住民参加型の景観保全を進めていきたいと考えている。「美しい農村景観を守ることは多様な生物、文化や伝統を守ることにつながる」。山本さんは力を込めた。
多様な動植物が生息する環境は、人に精神的な安らぎを与えたり、豊かな文化や伝統をはぐくむ。第5部は、生物多様性の付加的な価値から保全の意義を考える。
【写真説明】
農村景観をスクリーンに映し、脳内酸素量を計測する実験に取り組む山本徳司さん(右)=つくば市観音台の農村工学研究所の3Dドームシアター
|
<<戻 る
|
|